M&Aコンサルタントが薬局を譲渡する際に、高く売るためのコツを紹介します。
コツを紹介します
はじめに
はじめにお伝えしたいのは、高く売るためには、「相手と自分を知ることが大事」ということです。何事もそうですが、特に交渉ごとにおいては、自分のニーズを満たすためには、相手のニーズも満たさないと成り立ちません。
満たさず、成り立った場合、後に大きな問題が露呈することが多いです。そこで、まずは相手のニーズをここで確認したいと思います。
買い手のニーズは何?
M&Aにおいて、売り手の「相手」とは買い手になりますので、買い手のニーズを確認しましょう。ズバリ買い手のメインとなるニーズは「お金」です。
買い手のニーズは◯◯なお金
買い手が求めるものはお金と言いましたが、ここからがもっとも大事な話で、お金と言っても「買い手に入るお金」です。あなたの薬局の売上高が欲しいのではありません、利益が出せる仕組み(事業)が欲しいのです。高い売上高を求めている人もいますが、それは売上高が高い方が結果として買い手に入るお金が多くなるためだけであって、売上高が高くても利益が出ていないようなら普通は買いません。また、売り手には理解できないような薬局を買う人がいますが、それは、もっともっと先にお金が入る見込みがあるから買うのです。
まとめると、買い手は利益が出る薬局が欲しいのです。これから様々なポイントを紹介しますが、このことを常に意識しておくことで、腹落ちしやすいと思います。
稀に、上記で説明したニーズから逸した買い方をする人がいますが、そういう方は結局は問題ある買い方である場合が多いです。高く売るのはいいですが、価値に見合わないほどの高額になる場合は、売った後トラブルになるケースもありますので、価値に見合った範囲の中で売ることをおすすめします。
それが成功の鍵です。
自分の薬局の価値は何?
薬サポくん
ここでは、自分の薬局を知ることの大切さを説明します。みなさんは、自分の薬局の本当の価値を把握していますでしょうか。実は、薬局の価値は数種類に分けられます。ちなみに、この「価値」が営業権(のれんともいう)であり、譲渡価格に最も影響されるものとなります。なので超重要な観点なのです。
- 処方箋を応需しやすい立地であること
- 処方元の医師が若いこと
- 処方元に確実度の高い後継者がいること
- 処方箋集中率が低いこと
- 優秀な従業員がいること
- 社長が現場にいること
- 地域に根付いている薬局であること
- ドミナント展開していること
高く売るコツ
さて、いよいよ本題ですが、高く売るためには「高い利益を出せる構造」にすれば良いということがこれまでの説明でわかったかと思います。これが理解できればあとは簡単です。
経営コンサル的な視点になりますが、利益を上げる方法は大きく2つです。売上を伸ばすか、費用を抑えるかです。先に言っておくとM&Aにおいての「費用を抑えれるか否か」は買い手の規模や手腕によるので、売り手ができる施策としては売上を伸ばす事がメインになります。
売上を伸ばす
売上を伸ばす方法もいくつかに分解できるので各々紹介します。
応需する処方箋枚数を増やす
実際に行うとなるとかなりハードルは高いですが、インパクトは大きいです。ご存知かと思いますが、枚数を増やす方法をいくつか紹介します。
処方元からの処方箋を増やす
処方元の行い次第なので、アンコントローラブルなため、当てにできません。こればかりは、願うのみです。患者さんを増やすための支援程度ならできると思いますが、出しゃばると処方元から嫌われてジ・エンドになるので、そうならないよう気をつけたいものです。
処方元以外の処方箋を増やす
多くの患者さんは複数の医療機関に通っています。既存の患者さんに他科の処方箋も持ってきてもらう手法です。
また、処方元とは別の医療機関を近隣に誘致し、周辺の発行枚数自体を上げる手法もあります。
ライバルとなる薬局をマイナス方向に仕向けるような施策はモラル的にやめましょう。
在宅医療の範囲を広げる
若干、人や時間の負担は増えますが、在宅医療に参入または拡大する事で、新たな層の処方箋を獲得する事ができます。
施設経由の処方箋を獲得する
老健や特養では、何事も窓口となる方がいらっしゃいます。原則薬局を選ぶのは個人の意思ですが、施設系の場合はどうしても集中しやすくなります。しっかり施設とパイプがつながれば、多くの安定的な処方箋の応需が期待できます。
譲渡価格は実績値をベースに試算されます。加算を「取っている」と「取れそう」では大違いです。
処方箋単価を上げる
売上は単価×枚数ですので、単価を上げれば売上も上がるという話です。
後発医薬品調剤体制加算
死ぬ気であげましょう。上げて損のない加算です。低過ぎて諦めている薬局も上を目指すべきです。理由は、足切り(減算)ラインの上昇が今後予想されるからです。
薬剤服用歴管理指導料
1,000店舗近く見てきた筆者の肌感でいうと、算定率95%以上は頑張っている分類に入ると思います。算定率90%前後はよくあるケースです。算定率80%以下になってくるとサボり気味の薬剤師がいるか、リスク管理の高過ぎる薬剤師がいるかのパターンが多いです。ちなみに99%を超える薬局は不正をしている可能性が極めて高いです。欲張るのはやめましょう。と、いう事で目指すは90%です。
一包化加算
実際に一包化しているのに、点数を取っていないことがよくある加算です。取れるものはしっかりとり、実績として積み上げた方が考慮されやすいです。繰り返しになりますが、譲渡価格は実績値をベースに考えます。
その他の加算
多くの種類の加算がありますが、中には取って良いはずなのに取っていないものや、取れそうなのに取っていない加算が一つや二つはあるはずです。取りこぼしなく加算は取っておくことを強くお勧めします。
経費を抑える
上でも説明しましたが、「費用を抑えれるか否か」は買い手の規模や手腕によるので、売り手ができる施策はかなり少ないです。
従業員の給与を抑える
ハードルもかなり高いですが、唯一でき、かつインパクトの大きい経費制御かもしれません。給与を低くすると採用/退職リスクが高まりますので、バランスを取る必要がありますが、抑えられるなら抑えておきたいものです。途中から抑えるなんて普通はできませんので、採用する際の交渉が鍵となります。
地代家賃を抑える
地代家賃は固定費と呼ばれる経費です。名の通り、売上がどうなろうが、一度決まってしまえばほぼずっと同じ費用が負担となります。単純に低ければ買い手としては嬉しい話です。
タイミング
何事も良いタイミングと悪いタイミングがありますよね。M&Aも同じことが言えますので、各々紹介します。
良いタイミング
案件を前向きにさせる出来事を一例として列挙してみました。
- 枚数が上昇している
- 駐車場が近くにできた
- 処方元の後継ぎが戻ってきた
- 近くにクリニックができた
悪いタイミング
案件を後ろ向きにさせる出来事を一例として列挙してみました。
- キーマンが亡くなった
- 家賃が上がった
- 報酬改定とかぶる時期
- ライバル薬局が出現
やっておくと得すること
M&Aをするもしないも、やっておいて欲しいことを紹介します。それは、集中率を下げる行動です。これをしておくか否かで数千万円の差が出ます。本当に出ますので、諦めている人も頑張って取り組みましょう。
目標は85%未満です。カラクリは以下の通りです。
現行、大手の薬局(月処方箋枚数4万枚以上)は集中率85%を超えると調剤基本料や地域支援体制加算が減額されるような仕組みになっています。集中率が85%以上だった場合、M&Aされ、大手にグループ入りすると減算になってしまうわけですから、大手薬局としては価値算定をする際、減算状態で試算せざるを得なくなるわけです。逆に集中率が85%未満なら減算を免れられるので、減算分は価格交渉の余地となり、価格に上乗せされるといわけです。
実際にあった話ですが、M&Aすると減算になるとわかった売り手社長は、すぐに売らず約1年ほど集中率を下げる努力をしました。宣言通り目標の集中率に到達し、再度価格提示を受けてみたら、なんと以前より2,000万円も上の価格がつき、納得して売却されたという話があります。
【完全図解】薬局の処方箋集中率とは?計算方法と歯科取扱、下げる方法を紹介 | 調剤報酬改定2018 上記記事で集中率を下げる方法を紹介していますのでよかったら寄っていってください。以上、「調剤薬局M&A | 高く売るコツ | 1000万も差が出た話」でした。